2/15/2012

神奈川県北蔵元訪問④大矢孝酒造

神奈川の県北には、前述の「清水酒造」「久保田酒造」に
もう一つ「大矢孝酒造」があります。

上2つが相模原市なのに対して、
「大矢孝酒造」はその南部に隣接する愛川町にあります。

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地図で見ると、10キロも離れてないのですが
なんとここも交通機関での移動手段がないとのこと。

タクシーを呼んでいくしかないかなと思っていたのですが、
久保田専務のご好意により、
蔵の方に車で送っていただきました。
ありがとうございます!

車で何分くらいだったでしょう?
他愛もない話をしてるうちにちょっと開けた町中へ。
ほどなく目的地「大矢孝酒造」に到着。


出迎えていただいたのは、
八代目蔵元、大矢俊介代表。

しばし客間にて暖を取りながら談笑したのですが、
ソフトバンクの多村選手かのようなセクシー低音から放たれる言葉は
ゆっくりと淡々となんだけど、
ボクの心の中を激しく揺さぶってくれました。
(そういえば、多村選手は近隣の清川村出身)


「こぼれるくらいまで注がれた酒器を持ち上げるのは難しい。
 いい歳した人が身を屈めて下を向きながらお酒を啜る光景は
 なんだか卑しく醜いモノに映る。
 八分目くらいまでしか注がれていない酒器を持って

 ワインのようにとまでは言わないけど、
 せめて上を向いてくいっといなせに飲むようにすることで
 だいぶ日本酒のイメージって変わると思うんです。
 あ、日本酒ってかっこいいなって思わせるだけでも
 きっと変わると思うんですよね。」


日本酒の飲酒人口の減少をどうにかしようと考える時
ほとんどの人がそのモノ自体、つまり味わいに答えを見いだそうとする。
味わいそのものや、それを活かす方法だ。

でも、日本酒を文化的観点から考えて提唱する人は初めてだった。

たしかに、
テーブルやカウンターに突っ伏して
唇をんーと突き出してお酒を啜ったり
こぼれるくらいまでなみなみ注いで...
なんていうやり取りや光景は見ててスマートじゃない。
量を未だに求めてそんなことをしてるようじゃ
どんなに中身が進歩して美味しくなっても
周りから見れば卑しい様にしか見えない。

興味のない人、情報を持たない人を取り込む為には
その第一印象になる、外見・イメージがとっても重要になる。

どれだけお酒自体がおいしくなっても
それを未体験の人にはなんの価値も持たないし伝わらない。
でも、その味がどんなのか分からなくても

それを嗜むことがカッコいいと感じたら
きっと人はそれを手にしようと思うはずだ。

そして、その時はじめて美味しいお酒が効果を持つようになる。

日本人ほど、外見やイメージを気にする民族もいないと思う。
だからこそこういう観点から変えていかないといけないんだと思う。

八分の残り二分には、ものすごい可能性が秘められている。

ボクは、この話辺りから
すっかり大矢さんの人間性に惹かれてしまった。

ここ「大矢孝酒造」が醸すお酒「昇龍蓬萊」「残草蓬萊」に出会ったのは
かれこれ5年くらい前のこと。
その時は、すばらしい食中酒という印象だったんだけど
それから何回か飲むうちにかなりボディのしっかりした熟成系のお酒に
印象が変わってきた。

大矢さんの口から
「米の味わいがしっかり乗ったお酒、燗上がりする酒造りがモットー」
という言葉を聞いて、今までのことがすっと腑に収まった。

季節ごとのお酒と言うよりは、
いつ飲んでも「蓬萊」と思っていただけるようなのを目指しているそうで
基本、3年くらいは寝かせてしっかりと味を載せてから
出荷をするとのこと。
(新酒のしぼりたてはのぞく)

ちなみに、今年から
杜氏を迎えての造りに戻されたそうです。
(妙な縁でその方がたまたま同級生だとか)

上の話や造りの話を聞いてて感じたのが
前述の相模灘の久保田専務と実に対照的で
大矢さんは、ものすごく感覚的な方という印象。
データはあくまでもデータであって
その上で培ってきた自分たちの感性に従ってお酒が
出来上がっていくのを助けてあげるんだと仰っていた。

毎回毎回微妙に条件が違うのだから
同じデータでの仕上がりに正解がなるわけなんてない。
データを加味しながら
持てる限りの感性を駆使して一番の出来に持っていってあげる。

ということらしい。

最後に、8種類ほどお酒をきかせていただいた。
しかも、燗で。

大矢さんが仰った通り、すばたしい燗での伸び方に口元が緩む。
特に、純大は目から鱗の滑らかさでした。

そうそう。
この時にも大矢さんから

「身体を温める為に温めて飲むお酒はあれど、
 美味しく飲む為に温めて飲むお酒は日本のお酒だけだと思うんです。
 ですから、そうやって飲んで美味しいお酒を造りたいですよね。」と。

文化人、大矢さん。
僕にとってまたステキな出会いとなりました。


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蔵元名:大矢孝酒造株式会社
代表銘柄:昇龍蓬萊、残草蓬萊
住所:神奈川県愛甲郡愛川町田代521
アクセス:小田急本厚木駅西口より神奈中バス02系統に乗りおよそ30分。
     「愛川田代局前」下車徒歩2分。
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